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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)8006号 判決

原告 ゴールド電究株式会社 外五三名

被告 国 外一名

訴訟代理人 青木義人 外二名

主文

原告らの被告らに対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告らは、各自、各原告に対し、別表請求金額欄記載どおりの金員、およびこれに対する、被告国は昭和二十六年三月八日から、被告鉱工品貿易公団は昭和二十六年四月八日から、各完済に至るまで年六分の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」との、仮執行宣言つき判決を求め、その請求の原因および被告らの主張に対する答弁として、次のとおり述べた。

(請求の原因)

第一、昭和二十四年度輸出用小型電球の生産割当、買上指示の実施、および買上中止の経過。

(一)、昭和二十三年度におけるクリスマス用小型電球(以下「クリスマスランプ」という)の輸出が予想以上に多くなり、約六千五百万個が輸出されたところから、昭和二十四年度における海外からのクリスマスランプの注文はさらに増加することが予想され、他方国内のクリスマスランプ製造業者(以下「メーカー」という)の生産設備が整備され、その生産能力は昭和二十三年春頃には一箇月約一千万個に達したので、昭和二十四年度のクリスマスランプの輸出は、昭和二十三年度より一層増加する見込みが十分であつた。

(二)、右のような情勢であつたので、政府は、昭和二十四年度用クリスマスランプの生産資材入手に万全を期するため、連合軍総司令部(以下「G・H・Q」という)に対して、タングステン線、ジユメツト線等の輸入に必要な手続をとるとともに、昭和二十三年九月頃、商工省、貿易庁共同施策による昭和二十四年度クリスマスランプ計画生産の企画に着手し、同年九月二十九日、東京銀座三越七階のインターナショナルクラブで、原告らメーカーの代表と昭和二十四年度のクリスマスランプ計画生産についての打合せを行い、ついで、各メーカーの工場規模、生産能力、過去の生産実績等を調査し、貿易資金特別会計からクリスマスランプ買上のために約二億円を使用することができることになつた事情、および海外市場の状況をも考え合せて、昭和二十三年度の輸出実績である六千五百万個の三分の一弱である約二千万個は確実に輸出することができるとの見込をたて、これを政府貿易の方式によつて輸出するための生産計画および輸出計画を決定した。

(三)、政府が、右のように、約二千万個のクリスマスランプを、政府が買上げて、政府が輸出するという政府貿易方式によつて輸出することに決定したのは、

(1)  貿易資金特別会計からクリスマスランプ買上のために約二億円の資金を得ることができる見込みがついたこと、

(2)  昭和二十四年度における海外からの注文が増加することが十分期待され、前年度の輸出実績の三分の一弱の数量のものを買上げてやつても、輸出できずに滞貨になつてしまうことはないという確信がもてたこと、

(3)  クリスマスランプは、その用途の特殊性から、需要が時期的に制約されていて、海外からの注文を受けてから製造に着手したのでは需要に応ずることができず、したがつて、輸出振興のためには、十月から翌年二月までの注文のない期間にも、政府買上という保証によつてメーカーをして安心して生産を継続させることが必要であり、なおまた、メーカーの生産技術を保存するためにも生産を継続させることが必要であつたこと、

(4)  中小零細企業であるメーカーからも、企業維持のために、生産の継続ができるよう政府に買上げてもらいたいと希望していたこと、

などによるのである。

(四)、昭和二十三年十月十日頃、貿易庁の係官が、東京都千代田区有楽町一丁目三番地東光ビルで、メーカーおよび貿易業者(以下「サプライヤー」という)と会合し、各メーカーにクリスマスランプの生産を割当てるについて考慮すべき基準を検討し、さらに商工省、貿易庁の係官が、各地のメーカーの工場を視察し、各メーカーの工場の規模、生産能力、実績等をあらゆる角度から調査、検討を加えた結果、各メーカーに対して合計一千九百五十八万個となる生産割当案を決定し、同月二十九日頃貿易庁でメーカーおよびサプライヤーにこれを示して、その意見をきいた。

(五)、このようにして、昭和二十三年十一月末頃には政府の計画も具体化し、メーカーの生産準備も著しく進んだので、同年十二月一日、商工省、貿易庁の各担当官が、東光ビルにメーカーを集め、政府貿易による輸出商品として被告国が買上げるクリスマスランプ合計一千九百五十八万個につき、各メーカーに対する生産割当、および買上指示(以下「本件生産割当、買上指示」という)を行つた。メーカーである各原告が割当を受けたクリスマスランプの種類、数量は、別表各該当欄記載のとおりである。

(六)、政府貿易によるクリスマスランプの発注、買取、集荷、代金支払等の業務は、すべて被告公団の業務に属していた。ところで、原告らのようなメーカーは、複雑な管理貿易の取引手続をよく知らないので、専門のサプライヤーがメーカーの代理人となり、手数料を得て、メーカーと被告公団との取引に関する業務を行うのが慣例となつていた。そこで同月二日、被告公団の担当役員が、商工省、貿易庁の各担当官とともに、各メーカーから被告公団との取引につき委任を受けた各サプライヤーを東光ビルに集めて話合つた結果、前日の前記生産割当、買上指示によつて定められた種類、数量のクリスマスランプについて、被告公団とメーカーとの間に次のような契約ができた。(以下「本件クリスマスランプ供給契約」という)

(1)  被告公団は、昭和二十三年十二月一日に商工省および貿易庁が公表した、各メーカーに対する生産割当に従つて、メーカーの製品を買上げる。

(2)  買上価格は公定価格の八割とする。

(3)  製品の引渡その他一切の手続は、メーカーが委任したサプライヤーが行う。

(4)  製品の引渡は、その都度被告公団とサプライヤーとの間の個別的売買契約の形式をとつたうえで行う。

(5)  製品の引渡は昭和二十四年二月末日までに行う。

(6)  代金は製品の引渡と同時に支払う。

右のとおりのクリスマスランプ供給契約が、別表記載のとおりの各原告の代理人たる各サプライヤーと被告公団との間において別表記載のとおりの種類、数量のクリスマスランプについてできた。本件クリスマスランプ供給契約によつて、原告らは、約定期間内に約定の種類、数量のクリスマスランプを代理人たるサプライヤーを通じて被告公団に引渡すべき債務を、また被告公団は、約定の代金を支払うべき債務を負つた。前記(4) は、製品の引渡の際、その種類、数量、支払代金額、支払方法等を明確にするための一種の履行契約書を作成すべきことを定めたに過ぎないものであつて、個々の製品引渡の際にあらためて売買契約を結ぶべきことを定めたものではない。

(七)、右のとおり、政府から原告らに対する本件生産割当、買上指示があり被告公団と原告らとの本件クリスマスランプ供給契約もできたので、原告らは一斉にクリスマスランプの製造に着手し、昭和二十四年一月中旬頃までにいずれも割当数量の製造を完了した。

(八)、ところが、被告公団は、昭和二十三年十二月二十五日原告東新電気株式会社外十四名の原告の代理人であるサプライヤー南産業株式会社から右各原告が本件生産割当にしたがつて製造したクリスマスランプを現実に提供され、代金の支払を求められて、その受領、代金の支払を拒絶したのをはじめとして、原告らの代理人である各サプライヤーに対して、いずれもその提供した原告らの製品の受領、代金の支払を拒絶した。被告公団が、右のように原告らが製造したクリスマスランプの受領、代金の支払を拒絶したのは、政府が、政府貿易によるクリスマスランプ輸出の方針を変更し、その買上を中止したことによるのである。そして、昭和二十四年一月中旬には、商工省、貿易庁、被告公団が、メーカー、サプライヤーに対して本件クリスマスランプ供給契約に基く被告公団のクリスマスランプの買上(受領)を中止することを発表し、政府は、買上を中止したクリスマスランプを民間貿易によつて輸出すべきことを、原告らメーカーに強要した。

(九)、前記のとおり、政府がクリスマスランプの買上を中止し、被告公団がその受領、代金の支払を拒絶したので、原告らメーカーおよびサプライヤーは、その蒙るべき損害をできるだけ軽減するため、やむなく政府の要求に従つて民間貿易によつてこれを輸出しようと努力したところ、相当数の引合いがあり、輸出価格を引下げれば輸出することができる見込みがあつた。そこで、メーカーは政府に対してフロアプライスの引下げを要望したが、政府は輸出のフロアプライスを引下げようとしなかつた。そのために民間貿易による輸出もついにできないことになつた。

第二、原告らが蒙つた損害。

(十)、原告らが製造したクリスマスランプは、もともと輸出用として製造したものであり、かつその用途もクリスマス用という特殊のものであるため、国内において販売することは殆んど不可能であるから政府が買上げず、民間貿易による輸出もできなかつたことによつて、事実上無価値のものとなつてしまつた。そのため原告らは別表各該当欄記載のとおりの損害を蒙つた。右損害額算定の根拠は次のとおりである。

ランプ種類

昭和二十三年十二月二日における公定価格の八割に当る政府の約定買上価格(一個)

昭和二十五年十二月中旬における推定市販価格(一個)

C6   七円九十二銭   一円十六銭

C7(1/2)十五円二十銭   三円六十銭

SF   十一円八十銭八厘 二円四十銭

ST   十円九十六銭   二円四十銭

第三、被告国の責任

(十一)、前記のとおり、政府は昭和二十四年度にクリスマスランプ千九百五十八万個を政府貿易によつて輸出することを決定したのであるが、政府貿易は、政府がその責任において輸出計画をたてG・H・Qの承認を得てこれを遂行するものであり、G・H・Qから政府に対する昭和二十一年(一九四六年)三月十四日附「輸出手続に関する覚書」第五項によつて、「政府は輸出されるべき一切の物資に対し疑なき権限を獲得していなければならない」とされていたのであるから、政府はその企画した輸出計画の遂行に必要な輸出品を調達する責任を負つたのである。ところで、各メーカーの任意の生産を期待していたのでは到底その輸出計画を遂行することができないことは当時のわが国の経済事情からみて自明のことであつたから、メーカーをして政府の輸出計画を満たすべき生産を行わせるためには、これに相応する法的措置をすることが必要であつた。昭和二十四年度のクリスマスランプ輸出については、右の法的措置は、本件生産割当、買上指示という形式によつて行われたのである。また当時わが国の貿易は連合国の管理下におかれ、貿易業務はG・H・Qの指揮監督のもと遂行され、一切の取引はG・H・Qの指令に準拠し、これに適合した方法をもつて実施することを必要としたのであるから、政府の貿易行政は国内的には国家統制権の作用であつたのである。したがつて、本件生産割当、買上指示は単なる私経済行為ではなく政府の輸出計画遂行のために政府とメーカーとの間に法律関係を設定した行政行為である。すなわち、

(1)  生産割当は、メーカーの応諾を条件として、一方において、メーカーに対して統制物資である指定生産資材を輸出商品製作のために使用することの許可を与え、他方において、メーカーに対して買上指示の条件に従つて所定期日までに所定の製品を生産すべき作為義務を課する行政行為であり、

(2)  買上指示は、各メーカーが生産した製品を所定の条件により買取るべき意思表示をその内容とし、各メーカーの承諾によつて政府はその製品を買取るべき義務を負担する行政処分行為であり、かつ当然に各メーカーとの間に指示内容を実現すべき私法上の契約の締結を予定し、この私法上の契約と不可分の関係にある。

政府は、本件生産割当、買上指示を行つたことによつて、原告らメーカーに対してこれにより生ずる義務を負うのであり、輸出計画にそごを来した場合に生ずる損害は、国家が負担し、他にこれを転稼しないのが、国家信義の原則の要求するところである。輸出計画を変更したからといつて、本件生産割当、買上指示によつて原告らメーカーに対して負つた義務を国が免れるわけはない。

(十二)、しかるに、政府は、当初の政府貿易によるクリスマスランプ輸出の方針を民間貿易による輸出に変更するや、被告公団に対し、原告らメーカーからクリスマスランプを買上げる(受領する)ことの中止を命じ、被告公団は、前記のとおりクリスマスランプの受領、代金の支払を拒絶した。政府が被告公団に対してした右の買上中止の指示は行政処分である。また、被告公団は一面において国家行政組織の一部をなすものであるから、被告公団が原告らの製造にかかるクリスマスランプの受領代金の支払を拒絶したことも、一面においては公法上の処分ということができる。

(十三)、右のように、政府は原告らメーカーからクリスマスランプを買上げることを中止し、メーカー、サプライヤーに対して民間貿易によつて輸出することを強要しながら、政府の輸出方針の変更によつて窮地に陥つた原告らが、損害をいくらかでも減少させるため、製品を民間貿易の方法によつて輸出しようと努力してフロアプライスの引下げを要望したのに、その引下げの措置を講じなかつた。当時、海外市況は悪化の一路をたどつていたのであるから、政府はフロアプライス引下げの措置をとるべきであつたにも拘らず、その措置を講じなかつたために、原告らは民間貿易による輸出をすることができなかつたのである。フロアプライスを引下げなかつたことがG・H・Qの指示によるものであるとしても、当時のわが国はいわゆる間接管理の下にあつたから、G・H・Qの直接かつ明確な指示がない限り、すべての行政は政府の責任において行われたものであつて、クリスマスランプのフロアプライスを適切に引下げなかつたことについての国内的責任は、政府が負わなくてはならない。

(十四)、本件生産割当、買上指示が、国家の優越的意思の発動たる公権力の行使ではなく、行政上の斡旋、指導に過ぎないとしでも、管理貿易制度のもとでは、所管官庁でなければこのような斡旋、指導をすることはできないのであるから、それはなお、公権力を背景とする、当該職務担当公務員の職務行為である。

(十五)、昭和二十三、四年当時は貿易の国家管理が行われ、民間業者にとつては、いわゆる盲貿易の時代であつた。民間業者が海外市況を見とおすことは全く不可能であつて、ただ政府の方針と計画に従い、政府による製品買上を目当として生産に従事するほかはなかつた。すなわち、当時政府は、海外貿易に直面しこれを担当する唯一の責任者として、独自の海外市況の見とおしにもとづいて海外需要品の生産および輸出計画を決定し、これを実行していたのである。このような状態のもとで、昭和二十四年度のクリスマスランプの生産、輸出計画は、政府の担当職員がその責任においてたてたものであるから、当該職員は、これを遂行すべき職務上の責任を負い、万一その計画にそごを生じたときには、みずからの責任においてこれを解決し、関係者に不測の損害を及ぼすべきでないことは当然である。しかるに、政府の担当職員は、海外市況の見とおしを誤り、海外市況が悪化するや、原告らに損害を与えることを十分認識しながら、突如として既定の方針を変更し、メーカーからの買上(製品の受領)を中止したのである。このような行為は信義の原則に反し、その職務上の義務に違反するものであり、これによつて、原告らと被告公団との間の前記クリスマスランプ供約契約に基づく原告らの債権を侵害した。また、政府が買上を中止した後においては、メーカー、サプライヤーは民間貿易によつてクリスマスランプを輸出しようと努力したのであるが、フロアプライスを引下げなくては輸出が困難であることを政府の担当職員としては十分認識しており、もしくは認識することができたにもかかわらず、その政府担当職員は、輸出ができないことによつてメーカーらが損害を蒙ることについて考慮を払わず、その職務上行うべきフロアプライスの引下げのための適切な措置をとらなかつた。そのために、原告らは、民間貿易によるクリスマスランプの輸出をすることができなかつた。右のとおり、政府の担当職員の違法な職務行為、およびその職務上行うべき行為をしなかつた違法な不作為によつて、原告らは、被告公団に対する債権を侵害され、また製品の輸出をすることができなくなり、前記のとおりの損害を蒙つたのである。

(十六)、政府が原告らに対してした生産割当、買上指示は、前記のとおり行政処分であるとともに、他面その私法的性格において、原告らが製造したクリスマスランプを所定の条件で買取るという意思表示であり、原告らの承諾によつて、被告国は、本件クリスマスランプ供給契約の当事者となり、右契約によつて定められたところにしたがつて、原告らが製造したクリスマスランプを受領し、代金を支払うべき私法上の債務を負つたのである。そして、被告公団は国家行政組織法によつて国家行政組織の一部をなすものであるから、被告公団が原告らの製品の受領と代金の支払とを拒絶したことは、被告国が、前記のように原告らに対して負つた私法上の債務を履行しなかつたことになるのであり、これによつて原告らは前記のとおり損害を蒙つたのである。

(十七)、原告らが、被告国に対して、被告国の右の債務不履行を理由として、債務の履行に代る損害賠償を求めるについて、本件クリスマスランプ供給契約を解除することは必要ないと考えるのであるが、原告らは、昭和二十六年一月五日発、同月六日到着の内容証明郵便を以つて、被告公団に対して、同月三十一日までにクリスマスランプ受領の場所を指定し、同年二月十五日までにその代金を支払われたく、もし右の期限までに代金を支払わないときには、本件クリスマスランプ供給契約を解除する旨の、催告および条件付契約解除の意思表示をした。しかるに被告公団は、右の期限までに代金の支払をしなかつたから、昭和二十六年二月十五日の経過によつて、本件クリスマスランプ供給契約は解除された。

(十八)、被告国は、その公務員が前記(十二)、(十三)、(十五)のとおり、故意によつて違法な公権力の行使をし、また故意または過失によつて、なすべき職務行為をしなかつた違法な不作為によつて原告らが蒙つた前記の損害を賠償すべき義務がある。仮りに被告国の公務員の右の作為、不作為が、被告国の公権力の行使に関するものではないとしても、それは前記(十四)のとおり、被告国の公務員の職務行為であるから、被告国は使用者として、原告らが蒙つた損害を賠償すべき義務がある。また被告国は前記(十六)のとおり、その債務の不履行によつて原告らが蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

第四、被告公団の責任。

(十九)、被告公団は、貿易公団法により、当時政府の貿易専管機関であつた貿易庁が、官庁として貿易実務を管掌することが事実上困難であり、かつ不便であるところから、その代行機関として設けられたものである。したがつて、貿易庁と被告公団とは表裏一体の有機的関連をもち、被告公団はすべて貿易庁の指図によつて貿易庁の指図によつてその業務を行い、両者は実質的関連からみて、全く同一のものといつて差支えないのである。そして、被告公団は被告国とは別の独立した法人であるとともに、国家行政組織法によつて国家行政組織の一部をなすものとされている。

(二十)、右のとおり、被告公団は国家行政組織の一部をなしているから、本件クリスマスランプの輸出のような政府貿易に関する手続においては、被告公団は、原告らと政府との間の手続の過程において、おのずから原告らと政府との契約関係に加入し、その私法上の取引に関する部分につき、みずから当事者となり、原告らと政府との契約に基づく権利義務の主体となるのである。したがつて、本件クリスマスランプの供給契約の締結に被告公団が直接関与したかどうかは、被告公団の義務に影響を及ぼすものではない。

(二十一)、被告公団は、政府の輸出計画の変更に伴う、クリスマスランプ買上中止の指示に従つて、原告らに対する本件クリスマスランプ供給契約に基づくクリスマスランプ代金支払債務の履行をしなかつたのであるから、右の債務不履行によつて原告らが蒙つた損害を賠償すべき義務を負うのである。また、被告公団がクリスマスランプの代金を支払わなかつたことは、単に被告公団の債務を履行しなかつたことになるにとどまらず、原告らの被告国に対する契約上の権利を侵害する不法行為にもなるのであり、被告公団は、被告国とは別の独立人格を有するものとして、右の不法行為について、被告国とともに共同不法行為の責任を負い、原告らが蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

第五、被告らに対する原告の請求。

(二十二)、原告らは、被告国に対しては、第一次に国家賠償法第一条、もしくは民法第七百九条、第七百十五条に基づき、被告国の公務員の違法な職務行為によつて、各原告が蒙つた損害の賠償として、第二次に被告国の債務不履行に因つて各原告が蒙つた損害の賠償として、別表請求金額欄記載どおりの金員、およびこれに対する、損害発生の後であり、被告国に対して本件訴状が送達された日の翌日である昭和二十六年三月八日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告公団に対しては、第一次にその債務不履行によつて各原告が蒙つた損害の賠償として、第二次にその不法行為によつて各原告が蒙つた損害の賠償として、別表請求金額欄記載の金員、およびこれに対する、損害発生の後であり、被告公団に対して本件訴状が送達された日の翠日である昭和二十六年四月八日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二十三)、原告らの被告国に対する請求原因と被告公団に対する請求原因とはちがうけれども、原告らの被告らに対する請求は、いずれも前記(五)ないし(九)の事実によつて原告らが蒙つた損害の填補を求めるものであつて、同じことを目的とするものであるから、これに対する被告らの損害賠償義務は、いわゆる不真正連帯の関係にある。

(被告らの主張に対する答弁)

(一)、戦後のわが国の貿易機構および輸出手続が被告国の主張するとおりであることは認めるが、昭和二十三年八月十五日から民間貿易が行われるようになつたからといつて、本件生産割当、買上指示が行われた当時、すでに民間貿易が原則で、政府貿易は特殊例外の場合にのみ行われていたものではない。法制上は依然として政府貿易が原則であり、民間貿易は例外であつたのである。

(二)、被告国の主張(七)のうちの、昭和二十三年五月二十七日に行、われた政府係官とメーカーサプライヤーとの会合は、昭和二十三年度のクリスマスランプ輸出のための計画生産に関するものであつて、昭和二十四年度の輸出に関するものではない。同(九)のうちの、「昭和二十三年九月一日頃」は「九月二十九日」の、「九月十日頃」は「十月十日頃」の、「九月二十九日頃」は「十月二十九日頃」の誤りである。昭和二十三年十二月一、二日の会合で、単にサプライヤーがメーカーからクリスマスランプを買取るについての行政上の斡旋、指導を行つたにすぎず、当日各メーカーに指示した種類、数量のクリスマスランプを政府が買上げることを決めたものでないならば、メーカーがその全資力をあげて製造を行うはずはなかつた。また政府の買上が行われることの確信がなければ、貸出統制の厳重な市中銀行が経済力薄弱な各メーカーに融資するはずもなかつた。また貿易資金特別会計から二億円をクリスマスランプの買上資金として使用することを予定したことは被告国の認めるところであるが、貿易資金の性格からみても、これを、被告国が主張するように、メーカーのつなぎ資金融資のために使用するということはあるはずがない。このような融資のためならば、政府貿易の手続においで使用すべきIE一〇〇番を使用させるということをしなくても、商工省の資金需要証明制度によつて優先的に融資を受けさせることができたのである。右のような事情からみても、昭和二十三年十二月一、二日の会合においては、単に行政上の斡旋、指揮を行つたにすぎないという被告国の主張が事実に反することは明らかである。

(三)、政府が、政府貿易によつて輸出するためにメーカーに生産 割当、買上指示をしたクリスマスランプを、民間貿易によつて輸出させることに方針を変更したのは、次のような内外の情勢の変化によるのである。すなわち、昭和二十三年九月以降米国の物価が下落の傾向をたどり、同年十一月の選挙に民主党が勝つてインフレ抑制の実施が予想されたため、戦後のブームに警戒気分が起き、昭和二十四年初頭以来景気の後退が現われ、英国においては昭和二十四年四月以降輸出奨励の措置をとつたこと等から、世界市場における輸出競争が激化して買手市場に転化し、また、国内的には、昭和二十三年十七日、米国国務省、陸軍省からG・H・Qに対し、九項目の日本経済安定計画(いわゆる経済安定九原則)の実施が指令され、昭和二十四年二月一日ドツヂ公使の来朝によつて、経済自立のための諸方策が根本的に樹立され、いわゆるドツヂラインとして、インフレ抑制、財政均衡、各種補助金の打切等が具体的に決定された。このような事態の変化によつて、政府は昭和二十四年二月頃突如としてクリスマスランプの政府貿易による輸出計画を勝手に変更して、民間貿易によつて輸出させようとしたのである。

(四)、政府は、右のような事情から昭和二十四年度のクリスマスランプ輸出の方針を変更するや、クリスマスランプの買上による被告国の損失を免れるために、サプライヤーに対して、被告公団と売買契約書を作成する際に買戻誓約書を提出するよう要求するに至つたのである。ところが、メーカーは元来自己資本によつて全生産を完了する力がなく、また銀行から全生産に必要な資金の融資を受けることもできない者ばかりであつて、手持の資金と原料とによつて生産できる見込の数量について被告公団に対する納入手続をし、被告公団から交付される売買契約書により銀行から融資を受けて次の生産に移るという方法をとらざるを得ない実情にあり、サプライヤーもまた金融に追われていた。したがつて、被告公団の要求に従つて買戻誓約書を提出して売買契約書の交付を受けなければメーカーは、次の生産を開始することができないという窮境に陥つた。このような状態で、サプライヤーは、被告公団が要求した買戻の約束に応ずるかどうかを選択する自由を事実上奪われていたところから、被告公団のいうままに買戻誓約書を提出したのである。すなわち、サプライヤーがした買戻の約束は、被告公団が、メーカー、サプライヤーの前記のとおりの窮迫につけこんで結ばせたものであるから、公序良俗に反して無効である。また、原告らメーカーは代理人であるサプライヤーに対して、被告国が主張するような買戻の約束をすることについての代理権を与えていなかつたし、被告公団もサプライヤーがメーカーを代理して買戻の約束をする権限をもつていないことを知つていたのであるから、サプライヤーが被告公団とした買戻の約束の効力は、原告らメーカーにはおよばない。仮りに、買戻契約が有効であるとしでも、前記(十七)のとおり、原告らは本件クリスマスランプ供給契約を解除したから、右契約の履行に附随して結ばれた買戻契約も当然に効力を失つた。

(五)、被告国の主張(一八)のうちの、サプライヤーとバイヤーとの間にクリスマスランプ一億五百万個の輸出契約ができたこと、右の輸出契約が履行されなかつたことがバイヤーの債務不履行によるものであること、G・H・Qとしては業界の意見が一致するまではフロアプライスを引下げない方針であつたことは、いずれも否認する。フロアプライスの引下げにはG・H・Qの許可を必要としたことは認めるが、政府は、海外市況が悪化したため政府貿易により被告国が蒙るべき損害を免れるために、民間業者に対して民間貿易によつてクリスマスランプを輸出することを強要したのであるから、実際に輸出できる程度までフロアプライスを引下げて、民間業者の損害を軽減することに協力すべきであつたにもかかわらず、G・H・Qに対してフロアプライス引下げのための適切な方策を何も講じなかつたのである。

(六)、被告公団は貿易庁の補助機関(上級機関の指揮に従つて行動しなければならない下級機関)として、被告公団自身が法律行為をしないでも、貿易庁が原告らメーカーと結んだ本件クリスマスランプ供給契約の結果を実施、遂行するため、原告らメーカーからクリスマスランプを受領し、その代金を支払わなければならなかつたのであり、かつ被告公団が独立の法人格を与えられていることによつて、本件クリスマスランプ供給契約の権利、義務の主体となつたのである。

以上のとおり述べた。〈立証 省略〉

被告国訴訟控訴は、「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、次のとおり答弁した。

(原告らの請求原因事実の認否)

原告らの請求原因(一)の事実は認める。同(二)の事実のうち、政府がG・H・Qに対してタングステン線、ジユメツト線等クリスマスランプの生産に必要な資材の輸入に必要な手続をとつたこと、貿易資金特別会計からクリスマスランプ買上資金として二億円を使用することができることになつたことはいずれも認めるが、その余は否認する。同(三)の事実のうち(1) 、(4) は認めるが、その余は否認する。同(四)の事実のうち、商工省、貿易庁の係官がメーカー、サプライヤーとしばしば会合し、各メーカーに対する生産量の割振りをする基準の決定について検討したことは認めるが、その余は否認する。同(五)の事実のうち、昭和二十三年十二月一日、商工省の倉石英郎、貿易庁の稲田茂、竹内尋利らの係官が、東光ビルでメーカーと会合したこと、原告らが電球製造業者(メーカー)であること、右の会合において、原告らに対して、その見込生産すべきクリスマスランプの種類、数量を原告ら主張のとおり(ただし、原告理研真空工業株式会社のC6、原告大塚特殊電気株式会社のC7(1/2)を除く)指示したことは、いずれも認める。原告理研真空工業に対して指示したC6は二万個であり、原告大塚特殊電気に対してはC7(1/2)は指示しなかつた。その余は否認する。同(六)の事実のうち、被告公団の業務が原告ら主張のとおりであること、昭和二十三年十二月二日に商工省の吉岡忠、貿易庁の稲田、竹内らの係官が、東光ビルでサプライヤーと会合したこと、右会合に被告公団の職員が出席していたことは認めるが、その余は否認する。同(七)の事実のうち、原告らがその主張するとおりの数量のクリスマスランプを製造したかどうかは知らない。その余は否認する。同(八)の事実は全部否認する。同(九)の事実のうち、海外から多量のクリスマスランプの注文があつたこと、一部のサプライヤーからフロアプライス引下げの希望があつたこと、政府がフロアプライスを引下げなかつたことは認めるが、その余は否認する。同(十)の事実のうち、原告らが製造したクリスマスランプが輸出用として製造されたものであり、用途が特殊であること、各種類のクリスマスランプの昭和二十三年十二月当時の公定価格の八割が原告ら主張のとおりであることは、いずれも認める。その余は知らない。同(十一)の事実のうち、政府貿易によつて輸出する商品については政府が完全な所有権を有していなければならないこととされていたことは認めるが、その余は否認する。同(十二)の事実のうち、被告公団が国家行政組織の一部をなすものとされていたことは認めるが、その余は否認する。同(十三)の事実のうち、フロアプライスの決定について政府に責任があることは認めるが、その余は否認する。同(十四)、(十五)、(十六)の事実はすべて争う。同(十七)の事実のうち、原告らから被告公団に対して、原告ら主張のとおりの催告および意思表示が到達したことは認める。同(十八)は争う。

(被告国の主張)

第一、戦後の貿易機構および輸出手続。

(一)、昭和二十年(一九四五年)九月二十二日附「降伏後における米国の初期の対日方針」第四部経済f項、およびG・H・Qの同年十月九日附「必要物資の輸入に関する覚書」に基づき、わが国においては、輸出入ともすべて政府が政府機関を通じて一手に行い、かつ各物資について輸入代行機関を設置して実務に協力させることとし、同年十二月十四日「貿易庁官制」をもつて、貿易および貿易に伴う外国為替の管理に関する事務を掌らしめるため、商工省の外局として貿易庁を設置した。G・H・Qの昭和二十一年三月十四日附「輸出手続に関する覚書」によつて、輸出に関しては政府が全責任を負うべきことが定められたほか、輸出申請、輸出手続に関する詳細な手続が定められ、同年四月三日附「貿易庁に属する覚書によつて、貿易庁が政府の貿易専管機関として、政府を代表して完全な所有権を有する物資のみを輸出用として引渡し、または引渡させることなど、その責任について詳細に定められた。同年六月二十日、政府は貿易等臨時措置令を制定して、命令の定める場合を除いては、政府以外の者は、物品を輸出し、または輸入することができない(同令第一条)ものとし、同年十一月十三日、貿易資金特別会計法を公布して、政府の責任において行う貿易の資金運用のために特別会計を設置し、資金の運用による損益はすべて政府に帰することを明らかにし、ついで、昭和二十二年四月十五日貿易公団法を公布して、鉱工品、繊維、倉糧、原材料の四貿易公団を設置し、主務大臣の定める輸出計画および輸出入手続に従つて輸出入に関する業務を行わしめることとした。

(二)、このような機構による政府貿易において、輸入が遙かに輸出を超過したので、輸出促進のために、G・H・Qの昭和二十二年六月十日附特別発表によつて、同年八月十五日から各国の民間貿易代表(以下「バイヤー」という)四百名の入国を許可し、わが国の主要重工業地域に滞在して、わが国の業者と自由に商談することを認めた。これがいわゆる制限付民間貿易であるが、この取引といえどもG・H・Qおよび政府の承認を必要とし、輸出は貿易庁が輸出契約の一方の当事者となつて行われたという点において、管理貿易であつた。

(三)、政府貿易の場合の雑貨の輸出は次のとおりの手続で行われた。

(1)  貿易庁係官から、被告公団職員立会の下にメーカーまたはサプライヤーが提出した商品見本を、G・H・Q担当官に示し、担当官が採用した商品について、サプライヤーは、輸出準備申請書(IE一〇〇番という形式)(以下IE一〇〇番」という)を作成して被告公団に提出する。被告公団はこのIE一〇〇番を審査して、貿易庁に送付する。

(2)  右のIE一〇〇番を貿易庁係官が署名してG・H・Qに提出し、G・H・Qが承認を与えると、貿易庁長官から被告公団総裁に宛てて、集荷指図書を発行する。

(3)  被告公団は、右集荷指図書によつて、当該IE一〇〇番に対するG・H・Qの承認があつたことを知り、サプライヤーと、当該商品の売買契約、およびその船積までの実務委託契約を結ぶ。

(4)  サプライヤーは被告公団との売買契約成立後商品を集荷し、輸出引渡申請書(IE二〇〇番という形式)(以下「IE二〇〇番」という)を作成して被告公団に提出し、同時に商品を被告公団に引渡し、代金の支払を受ける。

(5)  IE二〇〇番に対してG・H・Qの承認があると、サプライヤーは、承認書で指定された船に、指定された日に商品を積込む。船積後、被告公団は船積書類と引換に船積費用をサプライヤーに支払う。

(6)  貿易庁は被告公団に対し、船積書類と引換に商品代金、および船積費用を支払う。

このような手続で行われたのであるが、サプライヤーは、前記(3) の被告公団との売買契約締結後には、貿易手形を提出して、市中銀行から金融を受けることができ、また資材については、IE一〇〇番に資材換算表を添附して貿易庁に提出し、その承認を受けたうえ、資材の割当を申請してその配給を受けることになつてた。

(四)、制限付民間貿易の場合の輸出は、次のとおりの手続で行われた。

(1)  国内業者とバイヤーとの間に商談が行われ、輸出商品の品質、数量、型、価格、包装、積出時期、積出港、仕向地等契約内容全般にわたり、詳細な取決めが行われる。

(2)  商談成立後、業者は、売買契約書(以下「セールスコントラクト」という)に必要事項を記入し、これにバイヤの署名をもらつて、IE一〇〇番とともに貿易庁に提出する。

(3)  貿易庁では、業者が提出した書類に不備がなければ、担当官が署名してG・H・Qに提出する。

(4)  G・H・Qが承認して、書類を貿易庁に返すと、貿易庁はセールスコントラクト二通を業者に交付し、そのうち一通を契約成立の証としてバイヤーに宛てて送付させ、業者と貿易庁(昭和二十二年十二月十五日までは貿易公団)との間で売買契約を結ぶ。

(5)  業者は右の契約に基づいで貿易手形を振出して銀行から金融を受け、またIE一〇〇番に資材換算表を添付してG・H・Qに提出し、その承認を受けたうえで資材の割当を申請し、その配給を受ける。

(6)  バイヤーは、セールスコントラクト作成後十日以内に、ドルをG・H・Q商業勘定に払込む旨の取消不能信用状を貿易庁あてに開設する。

(7)  業者は、納期までに商品を生産または集荷し、輸出準備が完了すると、輸出許可申請書(IE二〇一番という形式)(以下「IE二〇一番」という)を貿易庁に提出し、貿易庁はこれをG・H・Qに提出し、G・H・Qの承認があると船積する。

(五)、政府貿易および制限付民間貿易は右のような手続で行われていたのであるが、昭和二十三年八月十日、G・H・Qの了解を得て貿易庁から民間貿易の手続が発表された。これによつて、従来輸出契約が貿易庁とバイヤーとの間で結ばれていたのを改め、同年八月十五日以降はわが国の業者とバイヤーとの間で直接契約を結ぶこととなり、したがつて貿易庁が業者と売買契約を結ぶ必要はなくなり、形式的にも政府貿易、制限付民間貿易の場合とは全くちがう民間貿易の手続が認められることになつた。この民間貿易の場合の手続は次のとおりである。

(1)  業者とバイヤーとの間で商談が行われ、これが成立すると、業者は自己およびバイヤーが署名したセールスコントラクト、および輸出許可申請書(IE二〇二番という形式(以下「IE二〇二番」という)を貿易庁に提出する。

(2)  貿易庁は右の書類に許可のサインをしてG・H・Qに提出する。

(3)  G・H・Qが承認して書類を貿易庁に返すと、貿易庁はセールスコントラクト二通を業者に交付し、そのうち一通を契約成立の通知としてバイヤーに宛てて送付させる。

(4)  業者はIE二〇二番の承認を受けると、貿易手形を振出して銀行から金融を受け、また資材換算表をIE二〇二番に添付してG・H・Qに提出して承認を受け、資材割当を申請し、その割当を受ける。

(5)  バイヤーは、セールスコントラクト成立後十日以内に、信用状を業者に宛てて開設する。

(6)  業者は、輸出準備ができると、船積申請書を日本側為替取引銀行に提出し、銀行の認証を受けて船積する。

(六)、右の民間貿易の手続が定められた後も、昭和二十四年十二月一日に「外国為替及び外国貿易管理法」が施行されて、貿易等臨時措置令が廃止されるまでは、制度上は政府のみが輸出を行うという建前になつていたのであるが、実際には、昭和二十三年八月十五日以後は、原則として前項の手続による民間貿易が行われ、政府貿易は特殊の場合を除いては行われないことになつた。

第二、昭和二十四年度輸出用クリスマスランプの生産計画の作成およびその実施の経過。

(七)、原告らが主張するような事情で、昭和二十四年度のクリスマスランプの輸出の増加が期待されたので、政府はクリスマスランプの生産資材であるタングステン線、ジユメツト線等の輸入の必要を認めた。当時、輸入についてはすべてG・H・Qが商品の買付を行つていたので、政府が、右資材の輸入希望数量を算定し、その基礎資料を添えてG・H・Qに輸入を要請することになつた。まず昭和二十四年度におけるクリスマスランプ輸出見込数量を決定しなければならなかつたところから、商工省機械局電気機械課(以下「生産原課」という)、貿易庁輸出局雑貨課(以下「輸出担当課」という)、および同庁資材課の係官が、メーカーおよびサプライヤーの各代表者と、昭和二十三年五月二十七日頃東光ビルに集つたのをはじめとして、数回にわたつて会合し、海外市場の見とおし、その他貿易商況全般についてできるだけの知識をとり入れて検討した結果、昭和二十四年度におけるクリスマスランプの輸出可能数を一億二千万個と決定し、これに基づいて必要輸入資材の輸入希望数量を貿易庁輸入局に連絡し、昭和二十三年六月下旬、同局からG・H・Qに輸入要請手続をとつた。

(八)、政府が作成する生産計画は、政府の物資需給計画の一環として、物資の需給調整および資材確保を目的として、年度別、四半期別に、国内需要、輸出用、進駐軍需要を見合わせて、生産すべき商品の総量を見積つて、作成されるものであり、政府の経済施策の基礎資料となるものである。また輸出計画は、輸出入のバランスをとり、輸出品製造資材を確保するため、生産計画で定まつた輸出用の範囲内で、前年度の輸出実績や、海外からの需要の有無を参考として、仕向国別に輸出できる数量を見積つて作成する計画である。政府が作成する生産計画、輸出計画は右のようなものであつて、現在は需要が少いが、将来需要が増大することが予想されるため、将来の需要に応じられるよう見込生産をする必要がある商品については、その見込生産をすべき数量を見積つて生産計画が作成されるのであり、また輸出商品の生産計画は、民間貿易が行われるようになつた昭和二十三年八月十五日より前においては、政府貿易による輸出数量を見積つて、右の日から以後においては、民間貿易による輸出数量を見積つて作成されたのである。政府が作成した昭和二十四年度のクリスマスランプについての生産計画、輸出計画は、後記のとおり、見込生産計画であり、民間貿易による輸出計画であつた。

(九)、クリスマスランプは、その用途の特殊性から、海外からの注文は、毎年三月から八月までの間にあり、九月末日までに船積しなければならないので、注文を受けてから生産に着手したのでは、当時のメーカーの生産能力からみて、とうてい需要に応じきれない状態にあつた。したがつて、輸出振興のためには、海外の需要を見込み、予め計画を立てて、前年十月から当年二月までの閑散期に見込生産をする必要があつた。ところで、見込生産を行うためには、まずメーカーが生産資材の割当を受け、資材の購入、工賃の支払等に要する資金を調達しなければならないのであるが、メーカーはいずれも中、小零細企業でその能力がないため、右の資金調達には特別の方法を講ずる必要があつた。そのため昭和二十三年九月一日頃、メーカーから、同年十月以降の閑散期に見込生産するクリスマスランプを政府が買上げてほしいとの希望が表明された。しかし、政府が買上げるためには資金が必要であるので、同年九月十日頃、生産原課、輸出担当課の係官とメーカーおよびサプライヤーとが東光ビルに集つて、各メーカーに見込生産をすべき数量を割振りするについて考慮すべき基準を検討した結果、同年八月末現在における各メーカーのクリスマスランプ輸出検査所持込数を基準として、品種別に各メーカーの一箇月平均生産能力に相当する百分比を算定し、これに基づいて、各メーカーの生産すべき数を算定し、一応見込生産数を合計三千四百万個とし、昭和二十三年九月二十九日頃貿易庁においてこれをメーカー、サプライヤーに示して意見をきいた。ところで、他にも見込生産をしなければならない商品があつたので、貿易庁では、輸出局輸出課が中心となつて、資金の点から各商品別に生産計画を検討し、同庁経理局と打合わせた結果、同年十月中旬、貿易資金特別会計からクリスマスランプ買上資金として二億円を振向けて差支ないとの了解を得た。

(十)、ところで、右の了解ができた頃、昭和二十三年八月十五日以後民間貿易が行われることになつたことに関連して、右買上資金の運用に関して貿易庁内に種々の意見が生じ、再検討の結果、

(1)  貿易は同年八月十五日以降民間貿易となつたから、一時的変態的な政府貿易をやめ、なるべく本来の貿易形態である民間貿易に戻すべきであり、したがつて、クリスマスランプのみでなく、他の見込生産をする必要がある商品についても、すべて政府が買上げて輸出することはやめ、業者が民間貿易の方式で輸出するのが適当である。

(2)  貿易資金特別会計が、輸入商品の売上代金として取得する金額よりも、輸出商品の買上代金として支払う金額の方が多く、貿易資金勘定は赤字であつたので、政府がクリスマスランプを無条件で買上げることは、赤字を増大させることになり、経理上好ましくない。

(3)  被告公団は輸出を見込んで業者から各種商品を買上げていたが、実際に輸出されたものはその一部であつて、被告公団の滞貨として多量の商品が残つていたうえに、民間貿易への移行によつて、被告公団の機構の縮少、または廃止の問題が考慮されていたので、被告公団がクリスマスランプを買上げても、これを永く持越すことは好ましくない。

等の理由で、被告公団が買上げたクリスマスランプは、業者が必ずこれを買戻して民間貿易によつて輸出するという、いわゆる業者の自主的見込生産を行うための買上資金として前記の二億円を使用することに決定した。ところで、前記の二億円の枠内ではクリスマスランプ三千四百万個の生産は不可能であるし、輸出の確実性を確保するために見込生産すべき量をサプライヤーが民間貿易によつて確実に輸出できる見込のある数量に限つてメーカー全体に均等に見込生産の機会を与えることが適当であると考えられたので、同年十一月十八日頃生産原課、輸出担当課において、二億円の枠内でメーカー別にクリスマスランプの個数をあてはめた生産割の表を作成した。その結果、見込生産すべき数量は合計一千九百五十八万個となつたので、サプライヤーが右の範囲内でメーカーから買取ることができる数量について、サプライヤーから輸出準備の申請をさせることにした。このような経過によつて政府が作成した昭和二十四年度のクリスマスランプ生産計画は、サプライヤーが民間貿易によつて輸出するために見込生産される数量を見積つて作成されたものであり、政府が輸出するために生産すべき数量を見積つて作成されたものではない。

(十一)、昭和二十三年十二月一日東光ビルで、生産原課倉石英郎、輸出担当課稲田茂、春名尋利(現姓は竹内)各事務官がメーカーと会合し、前記のようにして決められた合計一千九百五十八万個のクリスマスランプの各メーカー別の見込生産すべき種類、数量を示し、各メーカーとしては右の範囲内で見込生産をし、サプライヤーからの注文に応ずることにすることを打合わせた。

(十二)、翌十二月二日東光ビルで輸出担当課の稲田、春名事務官、生産原課の吉岡技官がサプライヤーと会合し、昭和二十四年度のクリスマスランプ輸出の方式、手続について次のような説明をした。

(1)  サプライヤーは、みずから民間貿易によつて輸出できる範囲内でメーカーからクリスマスランプを買取り、IE一〇〇番を提出し、G・H・Qの承認を受けるとともに、できる限り早くバイヤーと交渉して民間貿易による輸出契約を結ぶこと。

(2)  貿易庁は被告公団に対して集荷指図書を発し、被告公団はこれに基づいてサプライヤーと、公定価格の八割の限度の価格で買上げる契約を結ぶが、原則として買上げは行わない。もしサプライヤーが右契約に基づいて振出した貿易手形の満期までに民間貿易による輸出契約を結ぶことができなかつた場合には、被告公団は右契約によつてクリスマスランプを買上げる。

(3)  右の買上後三箇月を経過してもサプライヤーが輸出契約を結ぶことができないときは、サプライヤーは、買上げを受けた右のクリスマスランプを、被告公団から買上価格に金利(日歩五銭)、諸経費を加算した価格で買戻さなければならない。

右のとおりの説明を行つたうえ、同日から同月七日までの間に輸出担当課において各サプライヤーから明らかにされた各サプライヤーがメーカーから買受けるクリスマスランプの数量を集計し、同月九日サプライヤーを集めて、前記のとおりの輸出手続の方式を説明するとともに、見込生産の数量を確認した。

(十三)、政府は政府貿易および制限付民間貿易の時代においては、産業育成輸出振興のために、業者が前記のとおりの手続によつてIE一〇〇番をG・H・Qに提出し、その承認を受けると、原局局長名義の文書をもつて各業者に対して、商品名、数量、生産期間を指定して生産指示をして計画生産を行つていたが、民間貿易になつてからは、計画生産は行わず、季節的、または用途的制約がある商品の輸出振興をはかるための見込生産のみを行つた。この後の場合には右の生産指示は行われない。また計画生産の場合には、政府のする輸出のために、被告公団が、業者から商品を買上げ、保管するのであるから、被告公団と業者との売買契約に買戻約款をつけないのが例であるが、本件の場合には政府貿易による輸出を目的としていなかつたのであるから、前記のとおりの趣旨の買戻約款をつけたのである。昭和二十四年度のクリスマスランプの輸出は政府貿易ではなく民間貿易によつて行うことは、昭和二十三年十二月二日に前記のとおり東光ビルで会合した際、政府の係官からサプライヤーに対して口頭で告知した。前日のメーカーとの会合のときには、政府貿易によらないことを特に告知してはいないが、それは、被告公団はサプライヤーと売買契約をするのであつて、政府、被告公団はメーカーとは直接売買契約を結ぶことはなく、メーカーはただサプライヤーの注文に応じてクリスマスランプを製造するという関係になつていたからである。

(十四)、昭和二十四年度のクリスマスランプの輸出が民間貿易によることになつていたにもかかわらず、前記(十二)(1) のとおり、サプライヤーに政府貿易の手続で使用することになつていたIE一〇〇番を提出させ、政府貿易に準ずる方式をとることにしたのは次のような事情によるのである。すなわち、前記(九)のとおり、クリスマスランプは見込生産をする必要があつたにも拘らず、メーカーには見込生産を行う資材、資金を調達する力がなかつた。他方、民間貿易の手続によると、前記(一)のとおり、サプライヤーがバイヤーとセールスコントラクトを結びIE二〇二番にG・H・Qの承認を得た後でなければ資材の割当、資金の融資を受けることができず、したがつてメーカーが需要期間前に資材、資金を得ることができないことになつていた。かくては見込生産を行うことはできず、輸出の振興を妨げるおそれがあつたので、これを解決するために、政府貿易に準ずる方式をとつて、サプライヤーにIE一〇〇番を提出させ、G・H・Qの承認を得たうえで貿易庁が集荷指図書を発行し、これに基づいて被告公団とサプライヤーとが売買契約を結びこれによつてサプライヤーが貿易手形を振出して銀行から融資を受け、またIE一〇〇番に資材換算表を添附して貿易庁に提出し、その承認を受けて、資材の割当、配給を受けることができるようにし、もつてメーカーが見込生産を行うことができるようにしたのであつた。かように政府貿易に準ずる方式をとることにしたのは、クリスマスランプの輸出の振興をはかるための便宜の方策にすぎず、政府貿易による輸出をすることを目的とするものではなかつたのであるから、クリスマスランプが被告公団の滞貨とならないようにするために、被告公団が買上げた後一定の期間が経過したときには、サプライヤーに買戻させるものであることを、前記十二月二日の会合の際係官が明らかにしておいたのである。そして、被告公団がサプライヤーからクリスマスランプを買上げる際、売買契約に買戻約款をつけることは、前記十二月一、二日の会合が行われた当時、政府部内の方針としてほぼ確定しており、同月十七日には、文書をもつて被告公団に通達した。

(十五)、前記(七)ないし(十四)のとおり、政府は、昭和二十三年十二月一、二日のメーカー、サプライヤーとの会合において、昭和二十四年度のクリスマスランプの輸出振興のため、見込生産の数量、輸出手続等について、メーカー、サプライヤーと具体的な打合せを行い、メーカーとサプライヤーとの間の売買の斡旋等行政上の斡旋、指導をしたにすぎないのであつて、原告らが主張するような生産割当、買上指示を行つたことはない。

(十六)、被告公団がサプライヤーに対して、クリスマスランプの受領、代金の支払を拒絶したことはないし、また政府、被告公団が買上の中止を発表したこともない。もともと被告公団がクリスマスランプを買上げる目的が、前記のとおりサプライヤーに金融の便宜をはかり、メーカーの見込生産を可能にすることにあり、したがつて買上については前記(十二)の(2) 、(3) のとおりの条件があることは、初めからサプライヤーに対して明らかにされていたのであり、また被告公団に対してもその趣旨が前記のとおり通達されていた。したがつて、被告公団は合計一千九百五十八万個のクリスマスランプについて各サプライヤーと前記(十二)の(2) 、(3) の条件にしたがつた売買契約を結び、各サプライヤーに買戻誓約書の提出を求めたに過ぎないのであつて、買上を中止したことはない。そして、実際に貿易手形の満期後に被告公団に対して買上の申出をしたのは南産業株式会社ほか三者であるが、被告公団は、これらの者から、実際に代金を支払つて買上げ、またこれらの者に売戻したのである。この買上、売戻の場合にも、クリスマスランプの引渡は現実の引渡の方法によらず、サプライヤーが保管したままで、買上の時は占有改定、売戻の時は簡易の引渡の方法によつたのである。

(十七)、昭和二十四年一月二十九日、貿易庁はクリスマスランプを含む円安商品七十品目の為替レートを一ドル対五百円から一ドル対四百五十円に引上げ、同年二月一日から実施することになつたが、同時に、同年二月一日から同月十五日までの間にバイヤーと民間貿易方式による輸出契約が成立したものについては、納期が同年八月十五日までのものに限り、特に引上げ前の一ドル対五百円のレートを認めることとした。そこでクリスマスランプについても、右の特例の認められる期間内に民間貿易による輸出契約を結ぶ方が採算上有利であることをサプライヤーに説明し、できるだけ被告公団に買上げてもらうことをさけ、極力民間貿易に切換えるようにと勧告したのであつて、買上中止を政府、被告公団が発表したのではない。

(十八)、右の勧告によつてサプライヤーが自己の責任でバイヤーと交渉し、同年二月十五日までの間に合計約一億五百万個のクリスマスランプの輸出契約を成立させたのであるが、バイヤーが信用状を開設しなかつたため、大半は船積できない結果となつた。すなわちフロアプライス(輸出最低ドル価格、すなわち輸出品の最低売値をドルで表わした価格である。サプライヤーがこのフロアプライスより低い価格でバイヤーと契約してIE二〇二番を貿易庁に提出しても、貿易庁は輸出を許可しない。したがつて、サプライヤーはフロアプライスより高い価格で契約を結ばなければ輸出できないことになるという意味で、フロアプライスはサプライヤーに対し拘束力がある。フロアプライスは、G・H・Qが海外市場価格を参考にして、貿易庁が提出する価格設定申請書を審査して許否を決定するものであり、貿易庁がフロアプライス以下の価格による輸出を許可しないのは、G・H・Qの指示によるものである。)を引下げないままで右のように多量の輸出契約が成立しているのであるから、民間貿易による輸出ができなかつたのは、原告らが主張するように、フロアプライスを引下げなかつたことによるのではなく、前記のとおり、バイヤーが信用状を開設せず、その債務を履行しなかつたことによるのである。のみならず、海外市況の悪化と国内業者やバイヤーの一部からのフロアプライス引下げの要望とにかんがみ、貿易庁はサプライヤー、メーカーを集め、数回にわたつてフロアプライスの引下げについて検討したが、すでに輸出契約を結んでいたサプライヤーは、フロアプライスを引下げると一ドル対三百六十円レートで円貨を受取ることになり、受取円貨が減少することになるのみでなく、海外信用を失墜し、場合によつては輸出契約を破棄される危険もあつたので、フロアプライスの引下げに反対し、メーカーも受取円貨の多いことを希望して、業界の意見が一致しなかつた。一方、貿易庁はG・H・Qに右の事情を逐一報告して指示を求め、価格設定申請書を数回提出したが、G・H・Qは業界の意見が一致するまで、これを取上げない方針を示し、業界の意見が一致した昭和二十四年八月までフロアプライス引下げを許可しなかつたので、政府としてもそれまでフロアプライスを引下げることができなかつたのである。

(十九)、政府がクリスマスランプを輸出するため、民間業者からこれを買上げることは、少しも命令、強制等の公権的作用の加わらない、純然たる私経済行為である。ところで昭和二十三年十二月一、二日の前記のメーカー、サプライヤーとの会合で、商工省、貿易庁の係官がしたことは、前記のとおり、単なる行政上の斡旋、指導にすぎず、原告らが主張するような公権力の行使としての生産割当、買上指示という行政行為でないのはもちろん、私経済行為としての買上でもなかつた。商工省、貿易庁の係官は、メーカーに対して、前記の会合の際クリスマスランプを生産し、サプライヤーの注文に応ずべきことを命令、強制したものではなく、メーカーも右のような強制を受けたものではない。メーカーが係官の示した数のクリスマスランプを生産するかどうか、サプライヤーの注文に応ずるかどうかは、すべてメーカーが自由に決定することができたものであり、そこには何ら命令強制的の公権的作用は加わつていなかつた。また政府、被告公団がクリスマスランプの買上を中止したことがないことは前記のとおりであるが、仮りに買上を中止したとしても、買上が私経済行為に過ぎない以上、買上の中止もまた公権力の行使でないことは当然である。

(二十)、前記のとおり政府が昭和二十四年度の輸出用クリスマスランプの見込生産に関する計画をたてた当時は、すでに民間貿易が行われていた。そして、サプライヤーはバイヤーと自由に交渉して商談を取決めていたので、海外市況についても、バイヤーを通じて十分な知識を得ていた。したがつて、政府はむしろ専門家であるサプライヤーの意見を尊重し、これに従つでクリスマスランプの見込生産に関する計画をたてたのであつて、原告らが主張するように、当時政府が海外貿易を担当する唯一の責任者ではなかつたし、また政府が、その独自の見とおしに基づいてクリスマスランプの海外需要を測定し、その見込生産に関する計画、輸出計画をたてていたのでもない。

(二十一)、フロアプライス制度は占領下の貿易における特別の最低価格統制であるから、フロアプライスは国内、国外の事情を総合して政策的見地から決定されるべきものであつて、個々の業者が輸出可能かどうかを基準として定められるべきものではない。したがつて、昭和二十四年度のクリスマスランプのフロアプライスが高すぎて、一部のサプライヤーが輸出することができなくなつたときに、これを輸出可能な限度に引下げなかつたからといつて、これをもつて直ちに不作為による不当な公権力の行使ということはできない。

(原告らの答弁に対する主張)

(一)、輸出資金需要証明制度は、昭和二十二年九月頃、業者が復興金融金庫に対して輸出産業の設備資金借入の申込をした場合に、貿易庁の証明のある設備資金に対して特別の取扱をしたことに始まり、昭和二十三年八月、民間貿易の再開によつて、それまである程度の見込生産、見込集荷を含んでいた貿易公団の発注が廃止された結果、業者の見込生産、見込集荷に要する資金の円滑な供給が特に必要となつたために、輸出物資生産資金需要証明書ほか三種を発行するようになつて確立された制度である。

(二)、金融機関の融資については、昭和二十二年大蔵省告示第三十七号金融機関資金融通準則で、産業別に、設備資金、運転資金についてそれぞれ甲の一、二、乙、丙と資金貸出の優先順位が定められていて、貿易業の運転資金は丙に属するものとされていたのであるが、見込生産のための資材確保の目的で、特別にバイヤーとのセールスコントラクトができる以前にIE二〇二番に資材換算表のみを添附してG・H・Qに提出し、その承認を受け(IE二〇二番は通常セールスコントラクト成立後に提出されるものであることは前記のとおりである。)、貿易庁が発行した輸出物資生産資金需要証明書を提出して融資の申込をした場合には、銀行はこれを上順位の甲の二に準じて優先的に取扱うことになつていた。しかし、右の証明書は銀行に融資順位引上げの資料として使用させるために発行されるものにすぎず、銀行はセールスコントラクト成立の見込、業者の能力、資金状態を考慮して融資するかどうかをきめるのであつて、金融確保の面からいえば、前記の証明書はそれほど強力な効用をもつているものではなかつたのである。これに対してIE一〇〇番を使用する場合には、被告公団と業者との間に売買契約が結ばれ、これに基づいて業者は貿易手形を振出して銀行から融資を受けることができるのであり、前記の証明書よりはるかに金融を受けやすかつたのである。したがつて、メーカーに対する金融の便宜をはかるためならば、輸出資金需要証明制度があつたから、IE一〇〇番を使用する政府貿易の形式をとる必要はなかつたという原告らの主張は当らない。

以上のとおり述べた。〈立証 省略〉

被告公団訴訟代理人は、「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、次のとおり答弁した。

(原告らの請求原因事実の認否)

原告らの請求原因(二)ないし(五)の事実は知らない。同(六)の事実のうち、原告ら主張の業務が被告公団の業務に属していたこと、昭和二十三年十二月二日の東光ビルにおける会合に被告公団の職員が列席したことは認めるが、その余は否認する。同(七)の事実のうち原告らがその主張するとおりのクリスマスランプを製造したかどうかは知らない。その余は否認する。同(八)の事実は否認する。同(九)の事実のうち、被告公団がクリスマスランプの買上代金の支払を中止したことは否認する。その余は知らない。同(十)の事実のうち昭和二十三年十二月当時の各種類のクリスマスランプの公定価格の八割が原告ら主張のとおりであることは認めるが、その余は知らない。同(十七)の事実のうち、被告公団に対して原告ら主張のとおりの催告、意思表示が到達したことは認める。同(十九)の事実のうち、被告公団が原告ら主張のとおりの趣旨で設立された法人であり、国家行政組織の一部をなすものであることは認めるが、その余は否認する。同(二十)の事実は否認する。同(二十一)は争う。

(被告公団の主張)

(一)、昭和二十三年十二月二日の東光ビルにおける会合に列席した被告公団の職員は、当時被告公団横浜支部輸出課長であつた中村正男だけであり、同人は、横浜の某サプライヤーから、クリスマスランプの輸出に関する会合があるから出席してくれとの依頼を受け、将来の執務の参考とするため傍聴者として出席し、貿易庁担当官が行つたサプライヤーの輸出能力の下調査、メーカーがクリスマスランプの見込生産を行うための資金取得方法および昭和二十四年度の輸出手続の説明等を見たり聞いたりし、たまたまサプライヤーの輸出実績について説明した以外には何も発言しなかつた。

(二)、商工省、貿易庁および被告公団のような国家機関が、原告らが主張するような多量、多額の商品に関する契約を結ぶ場合に、書面によらないで単に口頭で契約するというような事例が皆無であることはもちろん、被告公団本部からの指示、連絡なくして列席し、商工省、貿易庁の担当官から原告らの主張するような契約を締結すべき指示も受けていなかつた。被告公団の一介の地方職員に過ぎない中村が、原告らの主張するような契約を結ぶというようなことも、あり得べからざることである。

(三)、被告公団は、国家行政組織の一部となつている関係で、その業務の執行について所管上級官庁の指揮監督を受け、ことに国家貿易が行われていた当時の貿易庁とは密接な関係があつたが、それは行政上の内部関係にすぎず、対外的財産上の取引においては、貿易庁、その他の政府機関とは異つた別個独立の法人格をもち、輸出品の売渡については、政府との間においてすら、政府を売買の相手方とする私法上の取引の当事者として独立の入格を与えられている。すなわち、監督官庁から被告公団に対して、民間業者と特定の売買契約を締結すべき旨の指示、通達があつても、それは下級行政機関に対する行政行為であり、国家行政組織間の内部のものにすぎず、これによつてただちに、当然被告公団が対外的に権利を得、義務を負う毛のではない。被告公団と民間業者との間に法律関係が生ずるには、被告公団と民間業者との間で何らかの法律行為をすることが必要である。ところで、被告公団の民間業者に対する法律行為は、(イ)、公団がその名において権利義務の主体となることを明示して契約を結ぶ場合のほか、(ロ)、貿易庁の代理としてする場合、(ハ)、貿易庁が行つた法律行為の結果を実施、遂行する補助機関として行う場合もあり、個々の具体的条件によつて被告公団が法律関係の主体となる態様には差異があるから、原告らの主張するような、単に被告公団が貿易代行機関であるという概括的な観念をもつて、被告公団への権利、義務の帰属を判断することはできない。

以上のとおり述べた。〈立証 省略〉

理由

第一、原告らの被告国に対する請求について

(一)、原告らが主張するクリスマスランプの生産割当、買上指示について。

原告らがいずれもクリスマスランプ製造業者(メーカー)であること、昭和二十三年十二月一日、商工省の倉石英郎、貿易庁の稲田茂、竹内尋利(当時の姓は春名)らの係官が、東光ビルでメーカーと会合したこと、右の会合で、原告らに対して、昭和二十四年度における輸出用として各原告が製造するクリスマスランプの種類、数量について、原告ら主張のとおり(ただし、原告理研真空工業株式会社についてはC6二万個の限度において、また原告大塚特殊電気株式会社についてはC6についてのみ)の指示がされたことは、当事者間に争いがない。

そこで、右の指示が原告らが主張するような生産割当、買上指示というべきものであつたかどうかについて判断する。

その表示のとおりの新聞であることに争いがなく、証人本多定喜の証言によつてその日付の頃発行されたものと認められる甲第一号証、および証人倉石英郎、同竹内尋利の各証言、ならびに原告東新電気株式会社代表者掘田正蔵本人尋問の結果を合わせ考えると、右の東光ビルにおける会合は、生産原課の係官がメーカーの団体を通じてメーカーの参集を求めて行われたものであり、約八十名のメーカーが出席したこと、右の会合において、合計一千九百五十八万個のクリスマスランプについて、原告らを含めて九十九名のメーカーに対して、原告らに対すると同様の指示が行われたこと、右の会合に出席したメーカーに対する右の指示は、当時生産原課の貿易班長の職にあつた倉石英郎から、クリスマスランプの種類、数量を記載した紙片を交付して行われたこと、右倉石が、右の各メーカーに対して指示したクリスマスランプの政府買上価格は公定価格の八割であり、買上期間は昭和二十四年二月末日までである旨を述べたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかしながら、

(1)(イ)、右に認定したとおり、メーカーに対するクリスマスランプの種類、数量の指示は、これを記載した紙片を交付して行われたのであるが、右の紙片はどのような形式のものであつたか、特に右の指示はどの行政庁が行うものであるかが表示されていたか。

(ロ)、右の指示に対するメーカーの承諾はどのようにしてされたか(仮りに、右の指示が原告らが主張するような効果を生ずるものであつたとしても、それは行政庁の一方的行為によつて生ずるものでなく、メーカーの承諾によつて生ずるものであることは、原告らがみずから主張するところである)。

(ハ)、右に認定したとおり、右の指示は出席した約八十名を含む九十九名のメーカーに対してされたのであるが、出席しなかつたメーカーに対する指示およびその承諾はどのようにして行われたのであるか。原告らは全員出席していたのであるか。

等の点について事実を確定するに足りる主張、証拠は何もない。なるほど前記の甲第一号証および原告東新電気株式会社代表者掘田正蔵本人の供述によると、前記の会合に出席しなかつたメーカーからは委任状なるものが提出されていたことを認めることができるが、右の委任状が何を委任する趣旨で提出されたものであるかを認めるに足りる証拠はない。前記の甲第一号証によると、前記の会合においてメーカーの団体の結成、その代表者の選任等も行われたことが認められるから、右の委任状が前記の指示に対する承諾等をすることを委任する趣旨で提出されたものであると推認することもできないわけである。

(2)、行政庁が、国のため公法上または私法上の債務負担をまねく行為をするときは、たとい法令によつてその行為をするにあたつて従うべき方式が定められていなくても、その行為およびこれによつて負担する債務の内容を明らかにする文書を作成するのが普通である。(これは経験上いえることである)。

(3)、戦後昭和二十四年十一月末までの間のわが国の貿易機構、および雑貨の輸出手続が、前記事実摘示の被告国の主張の「第一戦後の貿易機構および輸出手続」の(一)ないし(五)のとおりであつたこと当事者間に争いない事実と、真正にできたことに争いのない乙第一号証の一、二の各A、B、同号証の三のA、同号証の四、五の各A、B、同第二号証の一、二の各A、B、同第三号証の一、二の各A、B、同第四号証の一、二の各A、B、同号証の三ないし六の各A、同第五号証の一ないし四の各A、B、同第六号証の一ないし四の各A、B、同第七号証のA、B、同第八号証、同第九号証の一、二の各A、Bと、証人竹内尋利、同大野登美蔵、同高井静一の各証言とを合わせ考えると、昭和二十二、二十三年度に政府貿易および制限付民間貿易の手続によつてクリスマスランプが輸出された際被告公団および貿易庁に対してクリスマスランプを売渡した売主、ならびに昭和二十四年度における輸出用のクリスマスランプについて被告公団と売買契約を結んだ売主は、メーカーではなくて、サプライヤーであつたことが認められる。原告らは、サプライヤーはメーカーの代理人であつたと主張するけれども、証人木下亮(第一回)の証言および原告東新電気株式会社代表者掘田正蔵本人の供述のうち原告らの右の主張にそう部分は、前記の各証拠および証人森内茂治、同平尾十郎の各証言に照らして、たやすく信用することができず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(4)、昭和二十三年度においては約六千五百万個のクリスマスランプが輸出されたこと、昭和二十四年度における海外からのクリスマスランプの注文が、昭和二十三年度よりも増加するであろうと予想され、他方国内のメーカーの生産設備が整備され、その生産能力が昭和二十三年春頃には、一箇月約一千万個になつていたので、昭和二十四年度のクリスマスランプの輸出は昭和二十三年度よりも増加するであろうと期待されていたこと、昭和二十四年度の輸出用クリスマスランプについて政府が買上を行うことを、メーカーが希望していたこと、昭和二十四年度において輸出されるべきクリスマスランプを政府が買上げるために、貿易資金特別会計から約二億円を使用することができることになつたことなど、当事者間に争いのない事実と、前記甲第一号証、甲第一号証と同様にその日付の頃発行された新聞と認められる甲第二号証と、証人木下亮(第一回)、同倉石英郎、同竹内尋利、同吉岡忠、同稲益繁の各証言、原告東新電気株式会社代表者掘田正蔵、同株式会社エスケー商会代表者鈴木寛次各本人尋問の結果とを合わせ考えると、次のとおり認められる。

昭和二十二年度におけるクリスマスランプの輸出数は約四百万個であつたが、昭和二十三年度においては予想以上に多くなり、約六千五百万個が輸出された。このように昭和二十三年度におけるクリスマスランプの輸出は前年度に比べて飛躍的に増加し、かつ予想よりも多かつたのであるが、戦前においては年間約三億個のクリスマスランプが輸出され、その六十ないし七十パーセントが米国に輸出されていたという実積があり、また昭和二十二年八月から国内に滞在するようになつた外国のバイヤー等によつて知ることができた海外の市況等から、昭和二十四年度には海外からのクリスマスランプの注文が昭和二十三年度よりもさらに増加するであろうと予想されるとともに、昭和二十三年春頃にはメーカーの生産能力も月産約一千万個程に増大し、受注能力も増していたので、昭和二十四年度のクリスマスランプの輸出数は昭和二十三年度よりも一層増加するであろうと期待されていた。当時、輸入については原則として政府の申請に基いてG・H・Qが商品の買付を行つていた。そこで、昭和二十四年のクリスマスランプの生産に必要なタングステン線、ジユメツト線等の資材についてG・H・Qに対してする輸入申請の準備のため、昭和二十三年五月頃、生産原課、輸出担当課の担当係官がメーカー、サプライヤーの代表者と昭和二十四年度におけるクリスマスランプの輸出見込数について協議した。その結果は、昭和二十四年度においては一億二千万個の輸出が可能であろうということになつた。ところで、クリスマスランプについては、その用途の特殊性のため需要のある期間が限られていて、海外から注文があるのもおおむね四月頃から九月頃までで、それ以外の時期はいわゆる閑散期であるが、前記のとおり昭和二十四年度の輸出数が一億二千万個と見込まれたのに対して、メーカーの生産能力は月産一千万個であつたので、右の輸出見込数を生産するには、閑散期にも生産を継続している必要があり、またメーカーの製造技術を保存するためにも生産を継続することが必要であつた。しかし、メーカーはおおむね中小企業者であつて、その多くは、閑散期に、滞貨となる製品の生産を自己の資力で継続することはできなかつた。このような事情であつたので、昭和二十三年度におけるクリスマスランプの輸出を促進するためにG・H・Qの係官の示唆によつてつくられ、生産原課の倉石事務官、吉岡技官、輸出担当課の稲田事務官、メーカーの代表者宮川電球協会会長が委員となつていた輸出小型電球生産促進委員会の会合の際などに、メーカー、サプライヤーから生産原課、輸出担当課の係官に対して、昭和二十四年度における輸出のためメーカーが製造するクリスマスランプの一部を政府に買上げてもらいたいという希望が述べられていたが、さらに、昭和二十三年九月には、メーカーから貿易庁長官等に対して右の希望が表明された。そして、生産原課係官は、前記のようなメーカーの生産能力、資力等の状態、輸出促進による外貨獲得の見地等から、メーカーの右の希望にそうようにしたいという考えをもつていたので、輸出担当課係官に対して右の意向を伝えていたし、同年九月には商工省機械局長も貿易庁長官に対して、クリスマスランプの政府買上げを希望する旨の文書を出した。しかし、すでに昭和二十二年八月十五日から期限付民間貿易が、昭和二十三年八月十五日からは民間貿易が行われていた関係上、政府の貿易専管機関であつた貿易庁においては、できるだけ早くわが国の貿易を正常な貿易手続である民間貿易に戻すべきであるという考えから、また政府が輸出品を買上げるために必要な貿易資金特別会計の買上資金が不足していた事情もあつたので、昭和二十四年度における輸出用のクリスマスランプについて政府が買上げを行うかどうかをきめかねていた。ようやく昭和二十三年十一月中旬頃になつて、貿易資金特別会計からクリスマスランプ買上げ(原告らが主張するような政府貿易による輸出を目的とするものか、被告国が主張するような買戻特約付のものであるかの点はしばらくおき)のために二億円を使用することがきまつた。

このように認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。しかしながら、

(イ) 証人竹内尋利、同木下亮(第一回)の各証言を合わせ考えると、昭和二十三年度においては政府貿易の手続によつて約四百万個のクリスマスランプを被告公団が買上げたが、このうちには、政府貿易によつて輸出することができなかつたために、制限付民間貿易の手続に従つてサプライヤーがバイヤーと商談をし、被告公団が買上げてあつたものを一旦サプライヤーに売渡し、これをサプライヤーがあらためて貿易庁に売渡すという手続を経て輸出されたものがあつたことが認められ、右認定を妨げるに足りる証拠はない。

(ロ) 前記の貿易資金特別会計の資金二億円によるクリスマスランプの買上げについては、政府貿易による輸出手続で使用することになつていたIE一〇〇番を使用して、サプライヤーが申請をすべきことが貿易庁においてきめられたことは、被告国が認めているところである。そして、当事者間に争いのない前記の雑貨の輸出手続、および証人吉岡忠、同倉石英郎の各証言を合わせ考えると、当時クリスマスランプの製造に必要な資材のうちには配給制度がとられていたものがあり、制限付民間貿易および民間貿易の輸出手続においては、サプライヤーとバイヤーとの間で商談が成立し、セールスコントラクトが作成されてから、IE一〇〇番(制限付民間貿易の場合)またはIE二〇二番(民間貿易の場合)に資材換算表を添付してG・H・Qに提出して承認を受けた後に、生産原課に対して資材換算表の記載に基いて資材の割当を申請し、その配給を受けることになつており、したがつて、右の手続によつたのでは、バイヤーからの注文がない閑散期において、サプライヤーとバイヤーとの商談が成立する前にメーカーがクリスマスランプの製造に必要な資材の配給を受けることはできない事情にあつたことが認められる。ところで、前記認定事実からすると、政府がクリスマスランプの買上げに貿易資金特別会計の二億円の資金を使用することになつたのは、メーカーが閑散期にクリスマスランプを製造することができるようにすることが、その目的の一つであつたことが認められるのであり、右のとおり、制限付民間貿易または民間貿易の手続によつたのでは、その目的を達することができないことになることを考え合わせると、サプライヤーにIE一〇〇番を使用して申請をさせることがきめられたからといつて、そのことからただちに、前記の二億円で買上げるクリスマスランプの輸出自体も政府貿易によつて行うことがきめられたとすることができないことは明らかである。

(ハ) 右(イ)、(ロ)の点を考え合わせると、前記認定のような経過事情によつて昭和二十四年度における輸出用クリスマスランプの買上げのために貿易資金特別会計から二億円を使用することがきまつたということから、原告らが主張するように、政府が右の二億円によつて買上げるクリスマスランプを政府貿易によつて輸出するということをきめたと推認することはできず、他に原告らの右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(5)  前記(4) に認定した、政府が昭和二十四年度における輸出用クリスマスランプ買上げのために、貿易資金特別会計の二億円資金を使用することをきめるに至つた経過、事情によると、メーカーが閑散期にクリスマスランプを製造するために必要な資金を調達することができるようにすることが、政府が右の買上げを行うことの目的の一つであつたことが認められるのであるが、証人木下亮(第一回)、同野村太郎、同大河原達彦の各証言および弁論の全趣旨を合わせ考えると、政府貿易の手続によつて被告公団に売渡されるクリスマスランプをメーカーが製造するために必要な資金は、サプライヤーと被告公団との間にクリスマスランプの売買契約が成立すると、サプライヤーがその契約に基いて貿易手形を振出し、これによつて銀行から、被告公団との間に売買契約ができたクリスマスランプの生産に必要な資金の融資を受け、これをメーカーに交付するという方法によつて一般に調達されていたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はないから、前記の目的を達するためには、政府がメーカーから直接クリスマスランプを買上げるということは必しも必要ではなかつたということができる。

以上(1) ないし(5) に明らかにした点を考え合わせると、昭和二十三年十二月一日、東光ビルにおいて、さきに認定したようにして行われた原告らに対するクリスマスランプの種類、数量の指示と、倉石英郎の陳述とをもつて、被告国と各原告との間に原告らが主張するような具体的権利義務(公法上、私法上のいずれであるにしても)を発生させることを目的として被告国が意思表示をしたものとすることはできない(結局、輸出クリスマスランプの製造に関して政府の大体の方針を説明したにすぎないとみるのが相当である)。そして、他に、前記の東光ビルにおける会合において原告らが主張するような生産割当、買上指示およびこれに対する原告らの承諾がされたことを認めるに足りる証拠はない。

(二)、原告らが主張するクリスマスランプ供給契約の成立について。

昭和二十三年十二月二日、東光ビルにおいて商工省の吉岡忠、貿易庁の稲田茂、竹内尋利らの係官がサプライヤーと会合したことは、当事者間に争いがなく、右の会合に被告公団の職員が出席したことは、被告らが認めている。

証人木下亮(第一回)、同森内茂治、同平尾十郎、同吉岡忠、同竹内尋利の各証言と弁論の全趣旨とを合わせ考えると、右の東光ビルにおける会合は、輸出担当課の係官がサプライヤーの団体を通じてサプライヤーの参集を求めて行われたものであり、株式会社日本貿易商会代表者木下亮、南産業株式会社々員森内茂治、株式会社野沢組社員平尾十郎らサプライヤー(会社であるサプライヤーについてはその代表者または従業員)十七、八名位が出席したこと、被告公団の職員で右の会合に出席したのは、被告公団横浜支部輸出課長中村正男であつたこと、右の会合において輸出担当課の稲田事務官が、「政府が昭和二十四年度における輸出用のクリスマスランプ一千九百五十八万個の買上げを行うことがきまり、この買上げを行うクリスマスランプについて、各メーカーに対する種類、数量の指示が行われた。被告公団が右の指示の範囲内で各メーカーの製品を買上げる。被告公団の買上価格は公定価格の八割、製品の被告公団に対する引渡期限は昭和二十四年二月末日までである。右の買上げを行う手続として、政府貿易による輸出手続で使用しているIE一〇〇番を使用する。」という趣旨のことを述べたことが認められ、右認定を妨げるに足りる証拠はない。

被告国は、右の会合に出席した前記の係官がサプライヤーに対して、被告公団が前記の一千九百五十八万個のクリスマスランプについて行う買上げは、被告国が主張するとおりの買戻しの特約付きで行うものであることを明らかにしたと主張し、証人竹内尋利、同吉岡忠の各証言のうちには、被告国の右の主張にそう証言があるけれども、右証言は、前記の他の証人の証言および証人有吉四郎(第一、二回)の証言に照らして、これだけによつて被告国の右主張事実を認めるに充分でなく、他に被告国の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

しかしながら、右の会合に被告公団を代表または代理して原告らが主張するようなクリスマスランプ供給契約を結ぶ権限を有する者が出席していたこと、各原告がそれぞれの原告の代理人であると主張するサプライヤー(会社であるサプライヤーについては代表者、または原告らが主張するようなクリスマスランプ供給契約を結ぶ代理権を有する従業員)が右の会合に出席していたこと(ただし、株式会社日本貿易商会を除く)、右の各サプライヤーが各原告主張のとおりそれぞれの原告の代理権を有していたこと、被告公団の代表者または代理人と右のサプライヤーとの間に、原告らが主張するようなクリスマスランプ供給契約を結ぶ意思が表示されたことについては、いずれもこれを認めるに足りる証拠がない。したがつて、昭和二十三年十二月二日に各原告と被告公団との間に、原告ら主張のようなクリスマスランプ供給契約が成立したことは、これを認めることができない。

また、原告らは、被告公団は政府の貿易専管機関であつた貿易庁の所管に属する貿易実務の代行機関として設置されたもので、すべて貿易庁の指図に従つてその業務を行つていたものであつて、独立の法人であるとともに国家行政組織の一部をなすものであるから、みずから原告ら主張のクリスマスランプ供給契約の締結に関与したものでなかつたとしても、政府が原告らに対して原告らが主張するとおりの生産割当、買上指示を行つたことによつて、当然に、右の生産割当、買上指示によつて被告国が原告らに対して取得した私法上の権利、義務と同一の権利、義務、すなわち原告らが主張するクリスマスランプ供給契約が被告公団との間で成立したと同一の権利、義務を取得したと主張するけれども、政府が原告らに対して原告らが主張するような生産割当、買上指示を行つたことを認めることができないことは前記(一)に記載したとおりであるから、原告らの右の主張は採用することができない(被告公団は独立した法人であるとともに国家行政組織の一部とされていたものであり、上級行政庁の指揮監督を受けるものであつたけれども、そうであるからといつて、被告公団自身の行為によらず、上級行政庁の行為によつて、当然に、被告公団が権利、義務の主体となるということは、考えられないことであるから、原告らの右の主張は、その主張自体からいつても採用することがむずかしい)。

(三)、原告らは、政府の担当職員が原告らに対して損害を及ぼすことを認識しながら、昭和二十四年度におけるクリスマスランプの政府貿易による輸出計画を変更し、原告らに対して生産割当、買上指示を行つたクリスマスランプの買上を中止し、これによつて原告らの被告公団に対するクリスマスランプ供給契約に基く債権を侵害し、原告らに対して原告ら主張のとおりの損害を与えたから、被告国は原告らが蒙つた損害を賠償すべき義務(クリスマスランプの買上中止は国家権力の行使であるから国家賠償法第一条による賠償義務、仮りに買上中止が国家権力の行使でないとすれば担当職員の使用者としての賠償義務)を負うと主張するけれども、原告らと被告公団との間にクリスマスランプ供給契約が成立したことが認められないこと、前記(二)で判断したとおりである以上、その他の点について判断するまでもなく、原告らの右の主張は理由がない。

(四)、次に、原告らは、政府の担当職員が、昭和二十四年度におけるクリスマスランプのフロアプライスを引下げなければ、民間貿易によるクリスマスランプの輸出ができなくなり、原告らメーカーが損害を蒙ることを知りながら、これを引下げなかつた違法な不作為により、原告らが政府の生産割当、買上指示によつて製造したクリスマスランプの輸出を不可能ならしめ、これによつて原告らに対して原告ら主張のとおりの損害を与えたから、被告国は原告らが蒙つた損害を賠償すべき義務を負う、と主張する。

昭和二十四年八月までクリスマスランプのフロアプライスが引下げられなかつたこと、フロアプライスの決定については政府に責任があること、フロアプライスの決定にはG・H・Qの許可が必要であつたことは、当事者間に争いがない。しかしながら、昭和二十四年度におけるクリスマスランプの輸出が不振であつたことが、フロアプライス、を引下げなかつたことによるものであることについてはこれを認めることができる証拠がなく、フロアプライスを昭和二十四年八月まで引下げなかつたことが、違法な不作為であるといわなければならないほどに不当であつたことについても、これを認めることができるほどの資料がない。この点について、証人木下亮(第二回)、同有吉四郎(第二回)、同十場喜一郎、同森内茂治、同大野登美蔵の各証言を合わせ考えると、(イ)、昭和二十四年二月頃からサプライヤーのうちにクリスマスランプのフロアプライスの引下げを望むものがあり、輸出担当課の係官に対してフロアプライス引下げのための処置をするよう申入れていたこと、(ロ)、昭和二十四年四、五月頃、サプライヤーである南産業株式会社が、その取引先である米国のバイヤーのウイリアムシヤーランドから、C6一千個十ドルの価格で相当多量を買受ける旨の申込を受け、輸出担当課係官に対して、C6のフロアプライスを一千個十ドルに引下げてもらいたいと申入れたこと、(ハ)、C6一千個のフロアプライスは昭和二十四年一月には十六ドルであつたが、同年八月に十ドルに引下げられたことを認めることができるが、同時に、また、(ニ)、昭和二十二、三年度においては米国ではクリスマスランプの生産は余り行われていなかつたが、昭和二十四年度からは米国においても相当多量のクリスマスランプが生産されるようになつたこと、(ホ)、昭和二十四年二月十五日までの間に、引下げられないフロアプライスのままで、サプライヤーとバイヤーとの間に相当多量のクリスマスランプの商談が成立し、セールスコントラクトが作成されたこと、(ヘ)、サプライヤーのうちには、当初フロアプライスの引下げに反対するものもあり、サプライヤーの意見が必ずしも一致していたものでないことも認められる。右(ニ)ないし(ヘ)に認定した事実を考え合わせると、右(イ)ないし(ハ)の事実が認められることによつて、フロアプライスを引下げなかつたことが昭和二十四年度におけるクリスマスランプの輸出を不振にしたものであり、また違法な不作為であつたとすることはとうていできない。

したがつて、原告らの前記の主張は、その他の点について判断するまでもなく理由がないものといわなければならない。

(五)、原告らは、政府が原告らに対して行つた原告ら主張のとおりの生産割当、買上指示による債務を履行しなかつたことにより、また被告国の行政組織の一部とされていた被告公団が、原告らとの間に成立した原告ら主張のとおりのクリスマスランプ供給契約を履行しなかつたことによつて、原告らに対して原告ら主張のとおりの損害を与えたから、被告国は、原告らが蒙つた損害を賠償すべき義務を負う、と主張するけれども、原告らが主張する生産割当、買上指示が行われ、クリスマスランプの供給契約が成立したことはこれを認めることができないこと、前記(一)(二)で明らかにしたとおりである以上、原告らの右の主張は、その他の点について判断するまでもなく、理由がないものといわなければならない。

(六)、以上のとおりであつて、原告らの被告国に対する請求はいずれも理由がない。

第二、原告らの被告公団に対する請求について。

(一)、原告らは、被告公団が原告らとの間に成立した原告ら主張のクリスマスランプ供給契約による債務を履行しなかつたことによつて、原告らに対して原告ら主張のとおりの損害を与えたから、被告公団は、原告らが蒙つた損害を賠償すべき義務を負う、と主張するけれども、原告ら主張のクリスマスランプ供給契約成立の事実を認めることができないこと、第一の(二)で判断したとおりである以上、原告らの右主張は、その他の点について判断するまでもなく、理由がないものといわなければならない。

(二)、また原告らは、被告公団が原告ら主張のクリスマスランプ供給契約に基くクリスマスランプの代金の支払をしなかつたことによつて、原告らの被告国に対する、原告ら主張の買上指示による債権を侵害し、原告らに対して原告ら主張のとおりの損害を与えたから、被告公団は、原告らに対して、その損害を賠償する義務を負う、と主張するけれども、原告らの右主張が理由のないものであることは、前記(一)と同様である。

(三)、以上のとおりであつて、原告らの被告公団に対する請求はいずれも理由がない。

よつて、原告らの被告国、被告公団に対する請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新村義広 石田穣一 寺井忠)

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